前回書いた謎のメモ。
今回は【解読編】というより【やっと思い出した編】です。
とある小春日和の昼下がり、結衣さんとイオンモールをふらふらしていたら…
「バタコちゃ~ん♪」と女性の声が。
私が知っているバタコさんとは、
囓られたり濡れたりして力が出なくなったアンパンマンにお顔を投げる…
女神のようなあのお方。
しかもあのお方は【バタコさん】と呼ばれることはあっても【バタコちゃん】とは呼ばれない…ハズ。
謎だわ~、と不審がりつつ振り向くと、
こちらに向かって手を振り駆け寄る女性の姿が。
キョロキョロ見回す私の横で、はずかしそうに俯く結衣さん。
ざわつく周囲のファミリー。完全なる注目の的。
「そのあだ名で呼ばないでよう…」
「え? なに? バタコちゃん、なんて?」
結衣さんのかぼそい抗議なんて、秒で却下。
つ、強い…そしてムダに声がデカい結衣さんのお知り合い。
注目を避けるようにじりじりと通路の端によけながら、
「うん、まあ、えへへ」とかいってその場を凌ぐ結衣さん。
「じゃあ、また月曜日。会社でね~、バタコちゃん!」
去り際のひと声で、またもや注目の的ざんす。
その後カフェで、特にバタコさんとの共通点がなさそうな結衣さんに、ニックネームの由来を聞いてみたら。
「私ね、すごく涙もろいの。
そういうお年頃なのよ。
灯とも離れちゃったから余計にぽろぽろ涙が出ちゃって。
頑張ってる若い人とか、
家族のためにサプライズを考えるお父さんとか、
卒業前の最後のお弁当とか…」
思い出し泣きをする結衣さん。
そんな人、初めて見ました…。
「それで?
どうしてバタコさん?」
「柴田理恵さんっていらっしゃるでしょ?
涙もろくて有名な」
「いや、柴田理恵さんは涙もろいだけの方ではござらんのよ。
女優さんよ、あの方は」
「そうなんだけど、涙もろいところだけがフィーチャーされてしまって…」
ふぅ、と息をもらす結衣さん。
「【コシバタ(小柴田)ちゃん】ってニックネームになって
…そのうち長いから【コシバちゃん】って。
でも、ほら小芝風花さんって可愛らしいタレントさんがいるでしょ?
ご本人が知らないこととはいえ、小芝風花さんが気の毒だから、私がお願いして…」
「【バタコちゃん】になったってこと?」
うんと頷く結衣さん。
「バタコさんにも失礼よね。
あんパンも焼けないくせにそんな…」
「焼いとるのはジャムおじさんよ。
バタコさんはその類いまれなるコントロール精度と強肩で、あんパン投げにスカウトされた方ですやん。(違うやろ)」
結衣さんの思い出し泣きが衝撃で、
ニックネームの由来が斜め上すぎて…。
思わずメモ帳に【バタコさん】と走り書きした私でしたが、すっかり記憶から抜け落ちていたのです。
【メモは単語だけじゃダメ】
【書き殴らずにヒントも書き添えよう】
再び心に刻んだのでした。